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2012.04.02
税務訴訟で勝訴!-大阪地裁平成24年2月28日判決-
当事務所は、税務訴訟を主な取扱い分野の一つとしています。
今般、債務免除益に対する課税に関する更正処分を争った事案について、
勝訴いたしました。
事案は、次のとおりです。
病院事業を営むXは、整理回収機構(RCC)などに対して
29億円超の債務を負っていたところ、事業再生のため、
別の金融機関から新たに5億円の融資を受け、
その融資金全部をもってRCCなどに一括弁済し、
その上で残余の総額24億円超の債務の免除を受けました。
これを本件債務免除といいます。
そして、Xは、本件債務免除益には、後述します
所得税基本通達36-17(以下「本通達」といいます。)
の適用があるとして収入金額に算入せずに所得税の確定申告したところ、
課税庁は本通達の適用はないとして債務免除益の一部につき
収入金額に加算する内容の更正処分及び過少申告加算税の
賦課決定処分(以下「本件更正処分」といいます。)をし、
総額4億円超の納税を命じたのでした。
これに対し、Xは、本件債務免除益には
本通達が適用されるから本件更正処分は違法であるとして、
審査請求を経て、私たちが代理人となり、
国を相手として裁判所に本件更正処分の取消しを求めて提訴したのでした。
この事件の争点は、所得税法上、
本件債務免除益が所得として課税されるかどうか、というものです。
所得税法上、金銭以外の物または権利その他の経済的な利益も所得とされ、
借入金などの債務の免除を受けた場合の債務免除益に対しても
所得税が課税されます。
したがって、債務免除益に課税されるのが原則ですので、
本件の課税処分に何ら問題はない、ということになりそうです。
しかしながら、個人の事業者が経営不振に陥り、
事業再生を図るために借入金などの債務の免除を受けた場合にも、
その債務免除益に対して課税され多額の納税を強いられれば、
事業再生への途も著しく困難となります。
本件も、まさに事業を再生させようとしてなされた債務免除でした。
この点、法人税法上は、例えば、
会社更生手続や民事再生手続などにより事業再生を図る際に、
通常であれば損金計上できない期限切れ欠損金を損金計上できるなど、
法律上の規定が設けられているのです。
しかし、所得税法では、法人税法のような法律上の規定はありません。
ただし、通達にのみ規定がありました。
(所得税基本通達36-17本文、但書省略)
債務免除益のうち、債務者が資力を喪失して債務を弁済することが
著しく困難であると認められる場合に受けたものについては、
各種所得の金額の計算上収入金額又は総収入金額に算入しないものとする。
もっとも、通達は法律ではありません。
つまり、通達は、課税行政庁の内部規律にすぎず、
納税者は、基本的には、この通達のみによって
課税あるいは非課税を主張することはできないことになっています。
また、この通達に関しては、先例として、
以下のように、仙台高裁平成17年10月26日判決がありました。
この仙台高裁判決は「民事再生法等により、
個人事業者の事業再生を図るための債務免除は、
事業の継続のために必要な資産又は資金の保有及び収入を
残債務等の弁済が可能な程度得られるような事業再生計画に基づいてなされ、
財産の保有及び残債務の弁済が可能な収入を得ることから、
個人事業者は、資力を喪失して債務を弁済することが
著しく困難である場合に該当しない」と判示し、
あたかも個人事業者が事業再生する際には
本通達の適用がないかのような判断を示していたのです。
この先例は、私たちにとっては非常に不利な先例でした。
しかしながら、私たちは、この通達は所得税法の
解釈の一場面を確認したにすぎないものであり、
言ってしまえば法律と同じ効力があるのだとの主張を展開するとともに、
仙台高裁判決は個人不当であることを粘り強く主張し続けました。
その結果、大阪地方裁判所は、平成24年2月28日の判決で、
基本的に私たちの主張を採用し、
この債務免除益に対する課税処分を取り消したのです。
なお、この判決は控訴されることなく確定しました。
以下、判決の概要です。
・相続税法上、個人が個人から債務免除を受けた場合、
資力を喪失して債務を弁済することが困難となる場合に
受けた債務免除は所得としない旨の規定(相続税法8条但書)があるところ、
個人が法人から債務免除を受けた場合、
当該債務免除後においても債務者が資力を喪失して
債務を弁済することが著しく困難である場合でなければ、
全く本通達の適用がないとすることは均衡を失する。
・法人税法上、会社更生や民事再生などの場合に受けた債務免除益に対して
いわゆる期限切れ欠損金を例外的に損金算入することを
許容する規定があるのに対し、所得税法上、そのような再建を支援する趣旨の
特別の規定は設けられていないが、これは本通達がその役割を果たしているとも解される。
・通達は、上級行政機関がその内部的権限に基づき
下級行政機関や職員に対し発する行政組織内部の命令にすぎず、
国民の権利義務に直接の法的影響を及ぼすものではないが、
所得税法は所得をその源泉ないし性質によって10種類に分類し、
それぞれについて所得金額の計算方法を定めているところ、
これらの計算方法は、個人の収入のうちその者の担税力を
増加させる利得に当たる部分を所得とする趣旨に出たものと解され、
所得税法36条が「経済的利益の価額」を収入金額に算入する旨
規定しているのも、その経済的な利益のうちその者の担税力を
増加させる利得に当たる部分を所得とする趣旨というべきであり、
本通達は所得税法36条の趣旨に整合する。
・本件のXは、RCCなどとの交渉経過のほか、
本件債務免除前には29億円超の債務を負っており、
本件債務免除後もなお債務超過の状態にあったことを考慮すれば、
本件債務免除を受ける直前において資力を喪失して
債務を弁済することが著しく困難であり、かつ、
本件債務免除の額がXにとってその債務を弁済することが
著しく困難である部分の金額の範囲にとどまるものと認められるから、
本通達が適用される。
したがって、本通達の適用がないことを前提とした
本件更正処分は違法であるからこれを取り消す。
本判決は、本通達の適用場面について一定の判断を示したことのほかに、
本来は裁判所も拘束されないはずの通達の一つである本通達について、
所得税法と整合するものとして法的根拠を認めたことや、
個人事業者の事業再生における債務免除益対策としての機能も
事実上認めたものとして大変意義のある判決です。
しかも、本判決は、仙台高裁のような解釈は採らず、
個人事業者に事業再生の途を開いたという意味においても
極めて重要な判決であると思われます。
ただし、本判決はあくまでも債務免除後においても
なお債務超過の状態にあった事案に対する判断ですので、
その点は注意が必要ですので、事前にご相談頂くことをお勧め致します。
今般、債務免除益に対する課税に関する更正処分を争った事案について、
勝訴いたしました。
事案は、次のとおりです。
病院事業を営むXは、整理回収機構(RCC)などに対して
29億円超の債務を負っていたところ、事業再生のため、
別の金融機関から新たに5億円の融資を受け、
その融資金全部をもってRCCなどに一括弁済し、
その上で残余の総額24億円超の債務の免除を受けました。
これを本件債務免除といいます。
そして、Xは、本件債務免除益には、後述します
所得税基本通達36-17(以下「本通達」といいます。)
の適用があるとして収入金額に算入せずに所得税の確定申告したところ、
課税庁は本通達の適用はないとして債務免除益の一部につき
収入金額に加算する内容の更正処分及び過少申告加算税の
賦課決定処分(以下「本件更正処分」といいます。)をし、
総額4億円超の納税を命じたのでした。
これに対し、Xは、本件債務免除益には
本通達が適用されるから本件更正処分は違法であるとして、
審査請求を経て、私たちが代理人となり、
国を相手として裁判所に本件更正処分の取消しを求めて提訴したのでした。
この事件の争点は、所得税法上、
本件債務免除益が所得として課税されるかどうか、というものです。
所得税法上、金銭以外の物または権利その他の経済的な利益も所得とされ、
借入金などの債務の免除を受けた場合の債務免除益に対しても
所得税が課税されます。
したがって、債務免除益に課税されるのが原則ですので、
本件の課税処分に何ら問題はない、ということになりそうです。
しかしながら、個人の事業者が経営不振に陥り、
事業再生を図るために借入金などの債務の免除を受けた場合にも、
その債務免除益に対して課税され多額の納税を強いられれば、
事業再生への途も著しく困難となります。
本件も、まさに事業を再生させようとしてなされた債務免除でした。
この点、法人税法上は、例えば、
会社更生手続や民事再生手続などにより事業再生を図る際に、
通常であれば損金計上できない期限切れ欠損金を損金計上できるなど、
法律上の規定が設けられているのです。
しかし、所得税法では、法人税法のような法律上の規定はありません。
ただし、通達にのみ規定がありました。
(所得税基本通達36-17本文、但書省略)
債務免除益のうち、債務者が資力を喪失して債務を弁済することが
著しく困難であると認められる場合に受けたものについては、
各種所得の金額の計算上収入金額又は総収入金額に算入しないものとする。
もっとも、通達は法律ではありません。
つまり、通達は、課税行政庁の内部規律にすぎず、
納税者は、基本的には、この通達のみによって
課税あるいは非課税を主張することはできないことになっています。
また、この通達に関しては、先例として、
以下のように、仙台高裁平成17年10月26日判決がありました。
この仙台高裁判決は「民事再生法等により、
個人事業者の事業再生を図るための債務免除は、
事業の継続のために必要な資産又は資金の保有及び収入を
残債務等の弁済が可能な程度得られるような事業再生計画に基づいてなされ、
財産の保有及び残債務の弁済が可能な収入を得ることから、
個人事業者は、資力を喪失して債務を弁済することが
著しく困難である場合に該当しない」と判示し、
あたかも個人事業者が事業再生する際には
本通達の適用がないかのような判断を示していたのです。
この先例は、私たちにとっては非常に不利な先例でした。
しかしながら、私たちは、この通達は所得税法の
解釈の一場面を確認したにすぎないものであり、
言ってしまえば法律と同じ効力があるのだとの主張を展開するとともに、
仙台高裁判決は個人不当であることを粘り強く主張し続けました。
その結果、大阪地方裁判所は、平成24年2月28日の判決で、
基本的に私たちの主張を採用し、
この債務免除益に対する課税処分を取り消したのです。
なお、この判決は控訴されることなく確定しました。
以下、判決の概要です。
・相続税法上、個人が個人から債務免除を受けた場合、
資力を喪失して債務を弁済することが困難となる場合に
受けた債務免除は所得としない旨の規定(相続税法8条但書)があるところ、
個人が法人から債務免除を受けた場合、
当該債務免除後においても債務者が資力を喪失して
債務を弁済することが著しく困難である場合でなければ、
全く本通達の適用がないとすることは均衡を失する。
・法人税法上、会社更生や民事再生などの場合に受けた債務免除益に対して
いわゆる期限切れ欠損金を例外的に損金算入することを
許容する規定があるのに対し、所得税法上、そのような再建を支援する趣旨の
特別の規定は設けられていないが、これは本通達がその役割を果たしているとも解される。
・通達は、上級行政機関がその内部的権限に基づき
下級行政機関や職員に対し発する行政組織内部の命令にすぎず、
国民の権利義務に直接の法的影響を及ぼすものではないが、
所得税法は所得をその源泉ないし性質によって10種類に分類し、
それぞれについて所得金額の計算方法を定めているところ、
これらの計算方法は、個人の収入のうちその者の担税力を
増加させる利得に当たる部分を所得とする趣旨に出たものと解され、
所得税法36条が「経済的利益の価額」を収入金額に算入する旨
規定しているのも、その経済的な利益のうちその者の担税力を
増加させる利得に当たる部分を所得とする趣旨というべきであり、
本通達は所得税法36条の趣旨に整合する。
・本件のXは、RCCなどとの交渉経過のほか、
本件債務免除前には29億円超の債務を負っており、
本件債務免除後もなお債務超過の状態にあったことを考慮すれば、
本件債務免除を受ける直前において資力を喪失して
債務を弁済することが著しく困難であり、かつ、
本件債務免除の額がXにとってその債務を弁済することが
著しく困難である部分の金額の範囲にとどまるものと認められるから、
本通達が適用される。
したがって、本通達の適用がないことを前提とした
本件更正処分は違法であるからこれを取り消す。
本判決は、本通達の適用場面について一定の判断を示したことのほかに、
本来は裁判所も拘束されないはずの通達の一つである本通達について、
所得税法と整合するものとして法的根拠を認めたことや、
個人事業者の事業再生における債務免除益対策としての機能も
事実上認めたものとして大変意義のある判決です。
しかも、本判決は、仙台高裁のような解釈は採らず、
個人事業者に事業再生の途を開いたという意味においても
極めて重要な判決であると思われます。
ただし、本判決はあくまでも債務免除後においても
なお債務超過の状態にあった事案に対する判断ですので、
その点は注意が必要ですので、事前にご相談頂くことをお勧め致します。
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